医用工学特講 第8回:二極真空管の特性曲線
こんにちは!
今回は二極真空管の特性曲線についてまとめていきます。
二極真空管の特性曲線と言われて「???」な人でも図を見ればピンとくると思います。
こんなヤツです。
最近では第70回、第68回、第67回に出題されており意外に頻出な問題です。
では、二極真空管の特性曲線について基礎を確認した後、実際に問題を解いていきましょう。
二極真空管の特性曲線
二極真空管とは
そもそも二極真空管とは何だというところからスタートします。
二極真空管とは陰極にあたるフィラメントと、陽極にあたる金属板とを封入した真空管です。
この文章を読んでピンと来た人もいるかと思います。
そうです、これはX線管そのものです!
つまり、二極真空管の特性はX線管の特性と考えれば良いということになります。
二極真空管が何者か分かったところで特性曲線に移りましょう。
二極真空管の特性曲線は先程示した通り、このような形になっています。
この特性曲線は以下の3つの領域に分けることができます。
(1) 初速度領域
(2) 空間電荷制限領域
(3) 温度制限領域
では、それぞれについてみていきましょう!
(1) 初速度領域
グラフを見れば分かりますが、初速度領域では陽極電圧が負になっています。
しかし、負の電圧がかかっているにも関わらず、わずかですが陽極電流は正になっています。
これはどういうことでしょう?
もちろん普通の回路では負の電圧がかかっている時に正方向に電流が流れるということはありませんが、二極真空管(X線管)では回路が繋がっているわけではありません。
陰極のフィラメントが加熱されることで飛び出した熱電子が電圧によって加速され、ターゲットに到達することで陽極電流が流れることになります。
陰極から飛び出す熱電子は運動エネルギーを持っていますから、負の電圧がかかっていても陽極まで到達する熱電子も存在するわけです。
つまり、熱電子の初速度によって陽極電流が決まる領域ということです。
続いて陽極電圧が正となった空間電荷制限領域について見ていきましょう。
(2) 空間電荷制限領域
何だか名前も長く、漢字しかないので見るだけでイヤな感じですが、意味を理解すれば大したことありません。
先程の初速度領域と違い、陽極電圧は正になっていますから熱電子は正方向に加速されます。
この陽極電圧がある一定の値を超えるまでは、電圧の値に応じて電流の値が変化していきます。
この領域が空間電荷制限領域です。
もう少し詳しくみていきましょう。
電子が放出され、陽極に向かって加速されますが、この電子の密度が高くなるとどういうことが起きるでしょうか?
電子はご存知の通り、負の電荷を持っています。
このため、電子同士は反発し合います。
電圧が小さいと陽極付近の電子群(空間電荷)によって放出された電子が斥力(反発力)を受けるため、陽極まで到達できない電子が存在することになります。
これは電圧が高くなるほど少なくなっていくことは明らかでしょう。
空間電荷によって陽極に到達できる電子が制限される領域ということです。
結果的に陽極電流Ipと陽極電圧Vpの間には以下の関係となります。
dは電極間距離です。
まぁ近い方が多くの熱電子が到達できそうですよね。
では、さらに陽極電圧が高くなった温度制限領域(飽和領域)について見ていきましょう
(3) 温度制限領域(飽和領域)
この領域は温度制限領域や飽和領域と呼ばれます。
飽和領域というのは、ある程度まで電圧を高くするとほぼ全ての熱電子が陽極に到達するため陽極電流が飽和する領域という意味です。
このことに加えて、先ほど示した図ではT1とT2の2つの特性曲線が描かれています。
このTは陰極フィラメントの温度を示しています。
先程言ったように、この領域では放出された熱電子のほとんどが陽極に到達するため、陽極電流が飽和しています。
つまり、これ以上陽極電流を増加させるためには熱電子の放出量を増やす、すなわち陰極フィラメントの温度を上げるしかないということです。
このように陽極電流が陰極フィラメントの温度によって制限を受ける領域ということですね。
大方理解できたでしょうか?
知識の確認のため、実際の問題を解いてみましょう!
問題演習
問題は第67回午前75です。
(第67回診療放射線技師国家試験より引用)
以下解説となるので先に解いて見てください。
では、各選択肢を見ていきます。
1.(1)は電流が流れない領域である。
グラフを見れば一発ですが、どう見ても流れていますよね。
よって誤りです。
2.⑵は陽極電流が陽極電圧の3/2乗に比例する領域である。
これは先程確認した通り、正しいですね。
3.⑵は陰極温度に制限された電流が流れる領域である。
先程の説明に従うと、これは温度制限領域を指しているので(3)ですね。
よって誤りです。
4.⑶は空間電荷に制限された電流が流れる領域である。
これは空間電荷制限領域を指しているので(2)ですね。
よって誤りです。
5.T1は T2に比べてフィラメント加熱電流が多い。
フィラメント温度が高い方が熱電子の放出量が多くなるため、陽極電流は大きくなります。
このためT2の方がフィラメント加熱電流が大きいことになります。
よって誤りです。
したがって、解答は2になります。
少し文章ばかりになってしまいましたが、理解できたでしょうか?
この類題が第70回午後78と第68回午後78に出題されているので、気になる方はぜひ解いてみてください。
また何か誤りなどありましたら教えてください。
ではまた!