最速?!第72回国試問題解説⑥(第72回診療放射線技師国家試験午前44)
こんにちは!
問題は第72回午前44です。下の解答を見る前にぜひ一度自分で考えてみてください。
(↓スマホでご覧の方は見づらくなっているので、画面を横にして見てください。)
44 重粒子線治療の深さ方向の物理線量分布の変化の組合せで正しいのはどれか。
入射直後のプラトー領域 拡大ブラッグピーク〈SOBP〉領域※
1. ほぼ一定 ほぼ一定
2. ほぼ一定 深くなるほど増加
3. ほぼ一定 深くなるほど減少
4. 深くなるほど増加 ほぼ一定
5. 深くなるほど減少 ほぼ一定
※全然関係ないのですが、実際の問題では「ブラッグピーク」が「ブラックピーク」と書かれていました。おそらく誤字でしょう。
(第72回診療放射線技師国家試験より引用)
一見簡単そうに見えますが、重粒子線治療独特の線量計算が含まれるので少し難しかったと思います。
私も教科書のどこかで見た気がするぐらいの知識でなんとか正解できましたが、自信はありませんでした。
今回から適応された(数年前から導入されていましたが)新しい国家試験出題基準にも重粒子線の線量計算が追加されていたので、この機会に学んでおいて損はないと思います。
では、基礎知識から確認していきましょう!
重粒子線の特徴
重粒子線治療はX線や電子線による治療と異なる特徴がいくつかあります。
まずは、そこから確認していきましょう。
LETとRBE
LET(Linear Energy Transfer、線エネルギー付与)は荷電粒子の飛跡に沿って単位長さ当りに局所的に与えられるエネルギー量を示します。
粒子線のLETは荷電粒子の電荷、質量が大きく、速度が遅いほど大きくなります。
放射線の線質はこのLETの違いにより、高LET放射線と低LET放射線の2つに分けられます。
のうち、α成分(直線成分)が大きく、直接作用が主になります。
逆にX線や電子線などの低LET放射線は間接作用が主になっています。
このため、放射線照射による生物学的効果は高LET放射線の方が高くなります。
この生物学的効果の指標としてRBE(Relative Biological Effectiveness、生物学的効果比)があります。
RBEは基準放射線(250keVのX線)と任意の生物学的効果を与える対象の放射線の線量の比で定義されます。
より少ない線量で任意の生物学的効果を与える放射線ほどRBEが高くなるはずなので、対象の放射線の線量が分母、基準放射線の線量が分子になります。
少し注意すべきなのは、RBEはLETが100〜200 keV/μmぐらいで最大となり、それ以上LETが大きくなるとオーバーキルとなるためRBEは小さくなることです。
国家試験でもよく問われる部分ですね。
続いて重粒子線の線量分布について確認していきます。
線量分布(ブラッグピーク)
X線や電子線は入射表面の線量が最も大きく(正確には表面から少し奥)、表面からの深さが深くなるほど線量は小さくなっていきます。
しかし、粒子線は物質中で停止する寸前の場所で急激に線量が高くなるという分布をします。
これがブラッグピークと呼ばれるものですね。
これは身体深部領域の放射線治療において非常に有用な性質であることが分かると思います。
皮膚などの正常組織の線量を抑えて、深部の標的に線量を集中させられるということです。
この程度は知っているという方が多いと思いますが、もう少し確認しておくべきことがあります。
粒子線、特に重粒子線が体内に入射し減速して飛程で停止するまでの間にLETも変化しているということです。
例えば炭素線のLETは入射付近では10数 keV/µm程度であるのが、ブラッグピーク付近では100~200 keV/µmにまで上昇します。
LETがこれだけ変化するということは、その生物学的効果も大きく変化すると考えられます。
「よく考えれば確かに!」という感じではないでしょうか。
これは後々重要になってくるので頭の隅に置いておいてください。
では、最後に問題で問われているSOBP(拡大ブラックピーク)について確認していきます。
SOBP(拡大ブラッグピーク)
SOBP(拡大ブラッグピーク)は深さ方向にブラッグピークの位置をずらすようにエネルギー吸収体(リッジフィルタ)を挿入し、複数のブラッグピークを合成することによって幅を広げたものです。
これにより標的の大きさに合わせた線量分布を作成することができるようになります。
細かい原理はスルーしておいて、何となくイメージをつかむことはできたかと思います。
ここから核心に迫っていきます。
放射線治療を行う上では標的内の線量分布を均一化する必要があります。
これは物理的な線量(物理線量)だけでなく、生物学的効果を考慮した線量分布が重要になります。
「???」という感じの方もおられると思いますが、もう少し詳しく書いていきます。
ここでいう物理線量は吸収線量のように放射線測定器を用いて計測できる線量のことです。
この物理線量は体内に入射したときの生物学的効果を考慮したものではありません。
実際に均一化したいのは生物学的効果を考慮した臨床線量(生物線量)のはずです。
ここで、先程のLETと生物学的効果の関係が重要になってきます。
停止直前にLETが高くなりブラッグピークを生じる重粒子線では、その位置で生物学的効果が高くなります。
これをSOBPについて考えてみましょう。
物理線量が均一になるようにSOBPを作成した場合、標的の浅い位置と深い位置で臨床線量に差が生じることが考えられます。
※図はイメージです。
これを避けるためには深い位置ほど物理線量を小さくする必要があります。
つまり、このような分布になります。
※図はイメージです。
これで標的の臨床線量を均一にすることができます。
詳しくは分かりませんが、治療計画の段階で臨床線量が一定になるように設定して、必要な物理線量を逐次近似法で最適化するようです。
ちゃんとここまで授業で習っている方もおられるかと思いますが、私は授業で聞いた覚えがなかったので少しまとめてみました。
詳しい話はもっとあると思いますが、この程度知っているだけで十分だと思います。
では、知識の確認が終わったところで、問題を解いていきます。
問題の解説
この問題では物理線量分布が問われています。
まず、①入射直後のプラトー領域です。
いまいち出題の意図が分からないのですが、プラトー領域だから物理線量もほぼ一定だと分かると思います。
次に②SOBP領域です。
先程確認した通り、臨床線量を均一にするためには深くなるほど物理線量が小さくなるようにする必要があります。
よって解答は3です。
最初に考えた解答と合っていたでしょうか?
少しふわっとした解説になってしまいましたが、なんとなくだけでも覚えておくと良いと思います。
何か誤りなどありましたら教えてください。
ではまた!