主任者試験を極める①(H29 第1種放射線取扱主任者試験 物理学 問28)
こんにちは!
今回は第1種放射線取扱主任者(以下、主任者)試験の少し難しいと思った問題について、基礎事項を確認しながらまとめていきます。
全何回になるかは特に決めていませんが、不定期に更新していきたいと思っています。
主任者試験の問題は診療放射線技師国家試験の問題よりも理解が難しい問題が多いかと思います。
難しい問題を解けないと合格できないかと言われるとそんなことは無いんですが、今年(2020年度)の試験は延期されたことですし、せっかく勉強するなら理解してしまった方が良いですよね。
暗記事項もたくさんありますが、これについては参考書などを見たほうがキレイにまとめられていると思うので、基本的に計算を含む少しややこしめの問題を対象としていきます。
そのため必然的に科目は物理学、計測学に偏ると思われます。
多くの人がつまづく部分なので、「この問題参考書の解説読んでも意味わからない💢」と思ったら、このシリーズを参考にしてもらえればと思います。
では早速、今回は平成29年度物理学問28を扱っていきます!
問28 GM計数管の入射窓の前方に線源Aを置いて1,000秒間計数したところ、100,000カウントであった。次に線源Aの横に線源Bを置き計数したところ、1,000秒間で197,000カウントを得た。最後に線源Aを取り去り、同じく1,000秒間計数したところ、計数値は100,000カウントであった。バックグラウンド計数率は0.5cpsである。このGM計数装置の分解時間[μs]はいくらか。
1.100
2.130
3.160
4.190
5.220
公益財団法人原子力安全技術センター
(https://www.nustec.or.jp/syunin/syunin05.html)
より引用
いきなりなかなか重たそうな問題ですね。
では、基礎事項の確認から始めていきます。
基礎の確認
今回の問題はGM計数管の計数率に関する問題です。
放射線計測学をあまり知らない人が読むと「なぜこんなことが起きるの⁇」と思ってしまうかもしれません。
線源A単独と線源B単独で計測した時の合計よりも線源A+線源Bで計測した時の方がカウントが少なくなってしまっているからですね。
先に言ってしまうと、これは検出器の数え落としによって起こる現象です。
まずはGM計数管の原理から簡単に確認しましょう。
GM計数管の原理
GM計数管は以下のような構造をしています。
図を見てわかるように計数管内に放射線が入射すると、ガスを電離しイオン対(電子と陽イオン)が生じます。
計数管の陽極と陰極には高電圧がかけられており、電子は陽極に向かって加速されます。
GM領域の高電圧では一つの電子イオン対でも電子なだれを起こすため、電離量に関係なく大きな波高値を生じます。
また、この電離(電子なだれ)により生じた陽イオンも電場の向きに従って陰極へ加速されますが、電子に比べて重いイオンは速度が遅いため、陽極の周りに停滞し陽イオンの筒のようなものを作ります。
これにより電圧が降下するため、放射線の入射による1次電離が生じても検出器は応答しません。
この応答がない(小さい)時間(不感時間、分解時間、回復時間)について続いて見ていきましょう。
不感時間、分解時間、回復時間とは
前述したように、放電直後の陽イオンの筒の影響で電圧が降下し、放射線が入射し1次電離を生じても検出器が応答しない時間があります。
これが不感時間と呼ばれるものです。
不感時間に加えて、電圧が回復し波高弁別レベルを超える出力波高が生じるまでの時間を分解時間と呼ばれます。
この時点の出力波高はパルスとして認識されるギリギリの大きさであり、さらに十分に時間が経過することで最初のパルスの波高値まで戻るまでの時間は回復時間と呼ばれます。
図で示すと以下のようになります。
印加電圧や波高弁別レベル、計数管の形状にも影響されますが、GM計数管の分解時間は数百μs程度です。
先程も書いたように、この分解時間内では放射線が入射して1次電離を生じても検出器は計数することができません。
この時間内に生じた放射線(電離)は「数え落とされる」というわけです。
数え落とし
検出器の数え落としについて真の計数率を[cps]、測定計数率を[cps]、分解時間を[s]とすると以下のような関係式が成り立ちます。
左辺は真の計数率から測定計数率を引いたものなのでそのまま1秒当たりの数え落としを示します。
右辺は少々ややこしいので説明します。
分解時間[s]は実際にGM計数管で計数されるたびに生じるものです。
つまり測定計数率[cps]と分解時間[s]の積はその検出器の1秒当たりの検出不能時間を示します。
これは真の計数率のうち検出不能となる割合とみることもできます。
このため、真の計数率[cps]にを乗じることで1秒当たりの数え落としが求められるというわけです。
これで式の意味が理解できたでしょうか?
これが理解できていれば、先程の式を変形しただけの
とか
といった式を覚える必要はなくなります。
基礎の確認はこの程度で大丈夫です。
これで恐らく問題文の意味が分からないということは無いでしょう。
では、問題を解いていきます!
問題の解説
いきなり計算を始めるのではなく、まずは文字を設定して考えていきます。
先程確認した関係より、各条件の真の計数率はそれぞれ、
と書けます。
また、真の計数率についてバックグラウンドの真の計数率をとすると以下の関係が成り立ちます。
バックグラウンドの計数率は小さく、分解時間の影響を無視できるため、測定計数率は
と考えられます。
(1)~(4)式より、
このまま計算しても解けないので、少し近似を行います。
のとき、
の近似が成り立ちます。
なぜこの近似が成り立つのか気になる方は以下の補足を読んでください。
基本は飛ばしてかまいません。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<補足>マクローリン展開による近似
としてマクローリン展開すると
となります。
第2項もしくは第3項あたりまでで近似すれば十分であり、今回は第2項までで近似しています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
このため、(5)式は
と表せます。少し整理すると、
となり、分解時間が求められます。
この分解時間を求める方法は2線源法と呼ばれます。
後は問題文から代入するだけですね。
題意より
[cps]
[cps]
[cps]
であるため、分解時間[s]は、
[µs]
と求まります。
2線源法の計算は近似などを含んでおり、なかなか難しかったかと思います。
実際問題を解くことを考えると最後の分解時間を求める式を覚えておくのが手っ取り早いと思いますが、かなりゴチャゴチャした式なので導出も理解しておくと良いかもしれません。
ひょっとすると物理の多肢択一式(旧物化生の問題)で導出の出題があるかもしれませんね。
今回の問題のように初見では歯が立たなそうな問題も一度理解しておくと解ける可能性が高くなると思います。
診療放射線技師の国家試験ではおそらく2線源法の計算までは出題されないと思いますが、真の計数率の式は頻出なのできっちり理解しておくと良いです。
何か誤りがあれば教えてください。
ではまた!