国試の難問?⑥(第67回診療放射線技師国家試験午前39)
こんにちは!
お久しぶりの国試の難問?シリーズです!
今回は電子線の線量分布についての問題を扱っていきます。
電子線治療は適応の少なさからか、あまり詳しく習わないことが多いような気がします。
しかし、X線による治療とは性質が異なる部分も多々あるので押さえておくと良いと思います。
少し物理学の理解が必要になるので、ややこしいところもあると思いますが、ぜひ最後まで読んでみてください!
問題解説
問題は第67回午前39です。
39 電子線の線量分布について誤っているのはどれか。
1.斜入では表面線量が増加する。
2.半影は低エネルギーで大きくなる。
3.エネルギーの増加とともに表面線量が低下する。
4.エネルギーの増加とともに制動放射が増加する。
5.照射野サイズが小さくなると表面線量が増加する。
(第67回診療放射線技師国家試験より引用)
正答を選ぶこと自体はそこまで難しくありませんが、他の選択肢の正誤を判断するのが少し難しいと思います。
では、各選択肢について吟味していきましょう。
1.電子線の斜入
まずは電子線の斜入に関する選択肢です。
1.斜入では表面線量が増加する。
まず電子線の特徴として、側方散乱が多いことが挙げられます。
入射方向に垂直な面に入射する場合、このような分布になると仮定します。
このように仮定すると、電子線が斜入した場合以下のような分布になると考えられます。
表面から同じ深さの点で比較すると、斜入した場合は隣接する点に入射した電子線の側方散乱による線量付与が加わるため、表面線量が大きくなると考えることができます。
2.電子線の半影
次は電子の半影についての選択肢です。
2.半影は低エネルギーで大きくなる。
先程述べた電子線の側方散乱はエネルギーが低いほど顕著になります。
エネルギーが高いほど直進性が高く、側方散乱が少なくなるということですね。
低エネルギーでは側方(照射野の外側)への散乱が多いわけですから、照射野(線量分布)の半影が大きくなると言えるでしょう。
3.PDDのエネルギー依存性
続いてPDD(深部線量百分率)のエネルギー依存性についての選択肢です。
3.エネルギーの増加とともに表面線量が低下する。
PDDは以下のようなエネルギー依存性があります。
図を見てわかるようにエネルギーが高くなるほど、表面線量が高くなっているように見えます。
ただ、少し注意しなければならないのはPDDは最大線量を100%とした場合のある深さにおける線量の比を示すものであることです。
つまり、この選択肢中における「表面線量の低下」というのは最大線量の深さ(最大深、基準深)に対する表面の線量の比が小さくなるという意味と解釈できます。
エネルギーが高くなるほどPDDは大きくなっていますから、この選択肢は誤りと考えられます。
ここで、なぜこのようなことが起こるか、もう少し考えてみましょう。
前述した通り、低エネルギーの電子線は側方散乱が大きいため、深さ方向の線量変化が急峻になります。
図で示すとこのような感じですね。
電子線においても表面から最大深までのビルドアップ領域が存在します。
低エネルギーの場合は側方散乱が大きいため、表面と最大深の線量比が大きくなると考えられます。
したがって、PDDのように最大深で規格化する(最大深の線量を100%とする)と、「表面線量が低くなる」と言えます。
逆に高エネルギーの電子線の場合、低エネルギー電子線と比較して側方散乱が少なく、直進性が高いためビルドアップ領域の線量勾配は小さくなります。
このため、表面と最大深の線量はあまり変化しません。
PDDのエネルギー依存性はこのように考えておけば良いでしょう。
4.制動放射のエネルギー依存性
制動放射のエネルギー依存性は放射線物理学でもよく問われる内容なので、そこまで難しくないと思います。
4.エネルギーの増加とともに制動放射が増加する。
電子と物質の相互作用(エネルギー損失)を示す以下のような図をよく見かけるかと思います。
この図よりエネルギーが高くなるほど制動放射(放射損失)の割合が高くなることが分かります。
また、電子線のエネルギー損失のうち、衝突損失と放射損失の比には以下のような関係があります。
:エネルギー、:原子番号
この関係からもエネルギーが高いほど、放射損失が大きい、すなわち制動放射が増加することが分かるでしょう。
5.PDDの照射野サイズ依存性
最後はPDDの照射野サイズ依存性についての選択肢です。
5.照射野サイズが小さくなると表面線量が増加する。
後程述べますが、これは少し微妙な選択肢です。
まずは照射野サイズがPDDにどのような影響を与えるか考えてみましょう。
照射野サイズが十分に大きい場合、照射面積が大きい分、側方からの電子フルエンス(散乱)による線量付与があるため、照射野サイズが小さい場合に比べて線量が持ち上げられると考えられます。
これにより照射野サイズが十分に大きい場合には表面と最大深の線量の差が相対的に大きくなるため、表面のPDDは小さくなると考えられます。
逆に照射野サイズが小さい場合には、側方からの電子フルエンスが少なく、表面のPDDは大きくなる(最大深と表面の線量の差が小さくなる)と考えられるでしょう。
この選択肢も3の選択肢と同様にPDD基準であり、実際の線量の値でないと考えればある程度納得できます。
ただ、教科書や参考書などのグラフを見ても表面におけるPDDの差もそこまで見られないものが多く、照射野サイズが小さいほど表面線量が増加すると明言されたものも見つからなかったので少し微妙な選択肢だと思います。
(明確な根拠が分かる方はぜひ教えてください!)
ここまで説明してきた通り、解答は3になります!
前提を理解していないと何とも言えない選択肢があり、少し難しい問題だったのではないでしょうか。
私自身もはっきりと言いきれない部分が少しあるので、もし誤りや不正確な部分がありましたらぜひ教えてください!
ではまた!