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「超音波ドプラ法」を理解する

こんにちは!

今回は超音波ドプラ法についてまとめていきます。

といっても臨床的な話ではなく、ドプラ法の原理についてです。

ドプラ法を理解するためには、もちろんドップラー効果の理解を避けて通れません。

(超音波ドプラ法は「ドプラ」、ドップラー効果は「ドップラー」の方がよく目にするのはなぜ笑?)

ということで、ドップラー効果復習をしてから超音波ドプラ法の原理を理解し、問題演習という形にしたいと思います。

まずはドップラー効果から復習しましょう。


ドップラー効果

ドップラー効果音源観測者、またはその両方移動することにより音が変わったように聞こえる現象です。

簡単な例で言うと救急車のサイレンですね。

近づいてくる時は音が高く(周波数が高く)、遠ざかる時は音が低く(周波数が低く)聞こえます。

では、この現象を式で示してみます。

波の式

波の最も基本的な式として、

 v = f \lambda

 v:速度、f:周波数、\lambda:波長

があります。

意外と勘違いされることが多いのですが、この式は周波数を大きくすると速度が速くなるという意味ではありません。

高周波の音だから音速が速くなるということはありませんよね。

周波数が高くなる分、波長は短くなるので音速は変わりません

では、基本の式を押さえたところで、ドップラー効果の式を導出してみましょう。


観測者が静止、音源が移動している場合

音源が近づいてきている場合、音源から観測者側へ向かう波は間隔が縮められます

    f:id:Yuru-yuru:20200413182124j:plain:w400

これは波長が短くなることと等しく、観測者からすると周波数が高い、すなわち音が高く感じます。

これを式で示すと、

 f = {\frac{c}{c-v}} \times f_0

 f:観測者の聞く周波数、c:音速、v:音源の速度、f_0:音源の周波数

となります。


音源が静止、観測者が移動する場合

観測者が音源に近付く場合、観測者が単位時間あたりに感じる波の数は多くなるため、周波数は高くなります。

    f:id:Yuru-yuru:20200413182157j:plain:w400

サイレンを鳴らしている救急車に向かって走っていく場面はあまりなさそうですが、観測者の速度をuとすると、

 f = {\frac{c-(-u)}{c}} \times f_0

と表せます。

観測者の速度は音速の方向を正としているので-uとなっています。


ドップラー効果の式

これら2つの式をまとめると、

 f = {\frac{c+u}{c-v}} \times f_0

という形にまとめられます。

では、これらの式を用いて超音波ドプラ法の原理について考えていきましょう。


超音波ドプラ法の原理

超音波検査装置では、プローブから超音波を送信し、物体によって反射されて返ってくる超音波を受信することで画像化しています。

この過程を以下の2つに分けて考えていきます。

 1.音源(送信プローブ)が静止、観測者(反射体)が動く時、観測者が感じる周波数f_1

 2.音源(反射体)が動き、観測者(受信プローブ)が静止している時、観測者が感じる周波数f_2

では1つずつみていきます。


1.音源(送信プローブ)が静止、観測者(反射体)が動くとき

プローブの位置を固定して超音波を送信するため、音源送信プローブとなります。

まずは、反射体観測者として、反射体が観測する周波数f_1を考えていきます。

    f:id:Yuru-yuru:20200413182248j:plain:w400

先程のドップラー効果で確認した通り、音源が静止、観測者が速度v近づいてきている場合、反射体が観測する周波数f_1は、

 f_1 = {\frac{c-(-v)}{c}} \times f_0

となります。


2.音源(反射体)が動き、観測者(受信プローブ)が静止しているとき

1の過程で超音波を受け取った反射体は超音波を反射し、音源となります。

プローブが反射された超音波を受信(観測)するため、受信プローブが観測する周波数f_2を考えます。

    f:id:Yuru-yuru:20200413182310j:plain:w400

こちらも先程のドップラー効果で確認した通り、音源が速度vで近づき、観測者が静止している場合、受信プローブが観測する周波数f_2は、

 f_2 = {\frac{c}{c-v}} \times f_1

   = {\frac{c}{c-v}} \times {\frac{c+v}{c}} \times f_0

   = {\frac{c+v}{c-v}} \times f_0

となります。


ドプラ偏位周波数

この式からも反射体の速度vを求めることはできますが、超音波装置ではc \gg vより、

 f_2 = \left({\frac{c+v+v}{c-v+v}} \right) \times f_0 \simeq \left(1 + {\frac{2v}{c}} \right) \times f_0

近似されます。

よって、

 f_2 \simeq f_0 + {\frac{2v}{c}} \times f_0 = f_0 + f_d

となり、f_dドプラ偏位周波数と呼ばれます。

f_0cは既知、f_2を観測するため、この式から反射体の速度vを求めることができます。

しかし、超音波ドプラ法で対象となるのは主に血流であり、プローブに対して垂直に向かってくるというパターンは少ないです。

このことを考慮してもう少し変形しましょう。


実際の超音波ドプラ法

実際の超音波ドプラ法では以下のような場合が考えられます。

    f:id:Yuru-yuru:20200413182332j:plain:w200

このような場合、先程の式を用いて求められる速度vは、超音波の送信方向と平行(プローブに対して垂直)な方向の成分だけになってしまうため、

 f:id:Yuru-yuru:20200413182955j:plain:w300

となります。

つまり、実際のドプラ偏位周波数f_dは、

 f_d = {\frac{2v \cos \theta}{c}} \times f_0

と求めることができます。

やっと見覚えのある式にたどり着くことができました!

では、この式を使う問題を解いていきましょう。


問題演習

第69回午後13

13 Doppler〈ドプラ〉法において、送信周波数5 MHz、ドプラシフト周波数1 kHz、音速1,500 m/s、超音波入射方向と血管走行方向のなす角度が60度のときの血流速度[cm/s]はどれか。


 1.10

 2.20

 3.30

 4.40

 5.50


式さえ覚えていればただ代入するだけで解ける問題ですが、ここまでドプラ法の計算問題の出題がほとんどなかったようなので戸惑った方が多かったのではないかと思います。

では、再度式を確認します。

 f_d = {\frac{2v \cos \theta}{c}} f_0

この式から速度vを求めると、

 v = {\frac{c}{2 \cos \theta}} \cdot {\frac{f_d}{f_0}}

  = {\frac{1500}{2 \times {\frac{1}{2}}}} \times {\frac{1 \times 10 ^3}{5 \times 10 ^6}}

  =0.3[m/s]

  =30[cm/s]

となります。

解答はですね。

代入するだけなので簡単ですね。

少し物足りないと思うので、最新第72回の問題も解いてみましょう。


第72回午前9

9 血流方向に対して60度で超音波を送信したところ、周波数が100 ppmずれて受信された。

生体中の音速を1,500 m/sとしたとき、血流速度[cm/s]はどれか。


 1.5

 2.10

 3.15

 4.20

 5.25


先程の問題よりは少しわかりにくくなっていると思います。

周波数が100 ppmずれている」という部分ですね。

このppmMRIの化学シフトなどで見覚えがあると思いますが、「100万分の1」という意味です。

つまり、送信周波数f_0に対して100万分の1のズレが生じたということです。

これを考慮して問題を解いていきます。

先程の問題と同様に、

  v = {\frac{c}{2 \cos \theta}} \cdot {\frac{f_d}{f_0}}

に代入します。

与えられた条件より、

 {\frac{f_d}{f_0}} = 100 \times 10 ^{-6} = 10 ^{-4}

となり、代入すると、

 v = {\frac{1500}{2 \times {\frac{1}{2}}}} \times 10 ^{-4}

  = 0.15[m/s]

  =15[cm/s]

と求められます。

よって解答はになります。

どうでしょうか?

そこまで複雑な式でもないので基本的には式を覚えればよいですが、念のため導出もできるようにしておくといいかもしれないですね。

何か誤りがあれば教えてください。

ではまた!