Dual energy CT入門③
こんにちは!
第3回ではDECTの撮影方式についてまとめていきます。
授業などでは原理よりむしろこの撮影方式だけを習うという場合が多いのではないでしょうか。
とりあえず撮影方式の種類は覚えていても、それぞれのメリット・デメリットを理解しているという方は少ないと思うので、各方式について確認していきます!
DECTの撮影方式
まずはDECTの各撮影方式について確認していきます。
DECTの撮影方式には、
1.連続2回転(Sequential scan)方式
2.2管球(Dual X-ray source)方式
3.高速スイッチング(Rapid kV switching)方式
4.2層検出器(Dual-layer detector)方式
5.分割(Sprit filter)方式
などがあります。
他にもあるかもしれませんが、この5つを理解していれば大方大丈夫だと思います。
では、各方式の概要とメリット・デメリットについてみていきましょう。
1.連続2回転(Sequential scan)方式
これは同一箇所に対して管電圧を切り替えて連続的に2回転することで2つの異なるエネルギーで撮影した画像を得るという方式です。
非常に単純な原理ですね。図で示すと以下のようになります。
では、メリット・デメリットを確認しましょう。
<メリット>
・エネルギー分離が良い
これは前回の記事で説明したエネルギーセパレーションが良いということですね。より正確なDual energy解析が可能となります。
方法としては低管電圧はそのまま、高管電圧は錫(Sn)フィルタなどにより低エネルギー成分を除くなどがあります。
・管電圧・管電流を完全に独立制御可能
低管電圧撮影と高管電圧撮影が別々に行われるため、それぞれの管電流なども独立制御となり、より最適な条件での撮影が可能となります。
・投影データ上でのDual energy解析が可能
管球、被写体、検出器の位置関係が低・高管電圧で同じであれば投影データでのDual energy解析が可能となります。
しかし、次のデメリットから必ずしも可能とは言えないかもしれません。
<デメリット>
・時間差が生じる
連続2回転とはいえ、やはり時間差が生じてしまいます。
この間に被写体が動いてしまうと正確な解析ができなくなる可能性があります。
・被ばく線量の増加
これは少し微妙な問題ですが、2回撮影を行うため被ばく線量が増加することが考えられます。
2.2管球(Dual X-ray source)方式
2管球方式はその名前の通り、CT装置のガントリ内にX線管球が2つ内蔵された方式です。
2つの管球は90度位相がズレた位置にあり、それぞれ高管電圧と低管電圧でX線を放出します。
図で示すと、以下のようになります。
では、メリット・デメリットを確認しましょう。
<メリット>
・エネルギー分離が高い
・管電圧・管電流を独立制御可能
これらは先ほどの連続2回転方式と同じですね。
・(連続2回転方式に比べて)撮影時間が短い
これは同じメリットを有する連続2回転方式と比べて撮影時間が短いという意味です。
他の方式に比較して撮影時間が短いというわけではありません。
<デメリット>
・投影データ上でのDual energy解析が不可能
2つの管球でスキャン軌跡に約90度の位相差があり、2つの投影データは一致しません。
このため、この方式を採用している場合、Dual energy解析は投影データベースではなく画像ベースとなります。
・散乱線によるアーチファクト
エネルギー分布の異なるX線が90度の位相差をもって同時に照射されるため、互いの系がそれぞれ散乱線源になってしまいます。
クロス散乱線と呼ばれるものです。
・ハードウェアのコストが高い
X線管、検出器が2組必要となるため、もちろん既存のCTには使用できませんし、CT装置自体の価格も他の方式より高くなる場合が多いようです。
・撮影FOVが小さい
ガントリ内に2つの撮影系を設置するため、スペース上の問題が生じ、FOVに制限がかかっていましたが、現在はほぼ解消されているようです。
3.高速スイッチング(Rapid kV switching)方式
高速スイッチング方式では管電圧を数ms以下の短い間隔で切り替えながら連続的に撮像することで、ほぼ同時に2つの異なる電圧で撮像したようなデータを取得することが可能となります。
図で示すと以下のようになります。
では、メリット・デメリットを確認しましょう。
<メリット>
・ハードウェアのコストを比較的低く抑えられる
管球と検出器は1組でよいので、2管球方式よりはコストを低く抑えられる場合が多いです。
・投影データ上でのDual energy解析が可能
厳密にはスイッチング間隔のずれが生じますが、ほぼ同じ軌跡を通るため投影データを用いた解析が可能となります。
何らかの補間処理が行われているものもあるようです。
<デメリット>
・管電圧の安定性が低い(エネルギー分離が悪い)
高速での切換を行うため、電圧の安定していない過渡期の割合が大きくなります。
これにより実効管電圧が不確かになり、エネルギーセパレーションが悪くなってしまいます。
かといって、スイッチング間隔を長くすると投影データのギャップが大きくなり、投影データベースのDual energy解析が難しくなってしまいます。
・管電流の変調が困難
ここでいう管電流の変調は主に高管電圧-低管電圧間の変調です。
基本的に低管電圧では線量(mAs)を多くする必要があるため、高管電圧より収集時間を長めにとってスイッチングを行うことで対応されているようです。
また、同じ高速スイッチング方式であっても管電圧の安定性や管電流変調を重視したものもあり、そちらでは投影データ間のギャップが大きくなってしまいます。
このギャップの補間不足は今流行りのディープラーニングなんかで補われるのでしょうか。
4.2層検出器(Dual-layer detector)方式
2層検出器方式では用いるX線源は単一ですが、低エネルギー用と高エネルギー用の2層の検出器を用いることで同時に2つのエネルギーでCT撮像を行います。
図で示すと以下のようになります。
1層目は低エネルギー成分、2層目は高エネルギー成分に適したシンチレータを用いた検出器になっています。
では、メリット・デメリットを確認しましょう。
<メリット>
・2つのエネルギー画像を空間的・時間的に完全に一致した条件で撮像可能
2層の検出器は同位置に設置されているため、空間的・時間的に一致していることは明らかです。
・投影データ上でのDual energy解析が可能
上の特徴から考えられるように完全に同じ物理現象から得られる投影データであるため、真の意味で投影データベースのDual energy解析が可能となります。
<デメリット>
・エネルギー分離が悪い
一応2層の検出器で低エネルギー成分・高エネルギー成分をそれぞれ分離しているというものの、元のX線は単一のX線源から放出されているものであるため、完全な分離は難しいと考えられるでしょう。
・検出器のコストが高い
検出器が2層ですからコストは高くなりそうですよね。
・管電流の独立制御ができない
これも高管電圧-低管電圧間での管電流の変調です。
・受光線量効率が低い
これは検出器の構造上避けられないものです。
一般的な検出器はシンチレータの直下にホトダイオードが設置されています。
しかし、2層検出器の場合、1層目の直下にホトダイオードを設置することはできません。
このため、1層目と2層目の各シンチレータの横にホトダイオードを配置するような構造となります。
これにより検出器の隔壁が厚くなり、不感部分が増えるため、受光線量効率が低下してしまいます。
5.分割(Split filter方式)
この方式では単一のX線管から発生したX線を特殊なフィルタを用いることで、低エネルギー成分・高エネルギー成分を頭尾方向に分割し、同時に2つのエネルギーで撮像します。
図で示すと以下のようになります。
では、メリット・デメリットを確認しましょう。
<メリット>
・ハードウェアのコストを抑えられる
これは基本的にフィルタを変えるだけで実現可能なため、従来のCT装置でも使用可能だそうです。
検出器側の処理はどうなっているのでしょう?よくわかりません笑
<デメリット>
・エネルギー分離が悪い
フィルタでエネルギー成分を分割しているだけなのでやはりエネルギーセパレーションはあまりよくありません。
・投影データ上でのDual energy解析はできない
頭尾方向に分割するため、スキャン軌跡が頭尾方向にわずかにずれてしまいます。
このため、投影データにもずれが生じ投影データベースのDual energy解析はできません。
・管電流は独立制御できない
2層検出器方式と同じです。
まとめ
ここまで説明してきたように、Dual energy CTには様々な撮影方式があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
また、各社各装置はそれぞれのデメリットを克服するために工夫を凝らしていることでしょう(なぜか偉そう笑)。
今後どのように開発が進んでいくのでしょうか。
楽しみですね。
次回は臨床応用について書いてみたいと思います。
ではまた!