Dual energy CT入門①
こんにちは!
今回から4回に分けてDual-energy CTについてまとめていきたいと思います。
DECTは現在CTにおける重要な研究テーマの一つですが、学部の授業などで細かい所まで触れることは少ないかと思います。
ですが、国試の出題にもDECTを意識しているのかなという問題もあり、今後標準的に学ぶ内容になっていくかもしれません。
まだ開拓中の技術ですから、書籍によって書いてあることが異なることも多々あるので、あくまで私が勉強した内容のまとめであることを理解したうえで読んでください。
第1回ではまず「DECTが何に使われるか」について書いていきます。
私自身の考えですが、「何のために使われるのか、何に必要なのか」を分かっているのと分かっていないのでは勉強のモチベーションがかなり違います!
いくつか馴染みのない用語も出てきますが、とりあえずスルーして「こんなことができるんだー」ぐらいの気持ちで読んでいただければと思います。
では、早速みていきましょう!
DECTとは?
そもそもDECTがどのようなものか何となくでも分かっていないと用途を説明しても「???」だと思うので、簡単にまとめます。
Dual-energy CT(デュアルエナジーCT)という名前から2つの異なるエネルギーのX線を使用するCTなんだろうな、ということは想像できると思います。
2つの異なるエネルギーのX線を使用した技術として骨密度測定のDXA法やDES(デュアルエナジーサブトラクション)など、国試にも出題されるものもいくつかありますよね。
一般撮影では通常の撮影であっても撮影部位によって管電圧を調整しますが、CTでは基本的に120kVp程度の管電圧が使用されることが多いです。
DECTは120kVpより低い管電圧と高い管電圧のX線で撮影を行い、得られたデータから通常のCT撮影では得られない情報を得ようとするものです。
2つの異なる管電圧での撮影を行う方式としてはdual-source方式、rapid kV switching方式やdual-layer方式などがあります。
(これらの方式については第3回で詳しくまとめる予定です。)
では、低管電圧と高管電圧の撮影によって得られたデータからどういったことが可能となるのでしょうか。
DECTで可能になること
DECTで可能となることとして、大きく以下の3つが挙げられます。
1.物質弁別
2.仮想単色X線画像
3.ビームハードニング補正
各項目についてもう少し詳しく見ていきましょう。
1.物質弁別
いきなり少し復習になるのですが、通常のCT撮影で得られるCT値とはどのようなものか、覚えているでしょうか?
CT値は以下のように定義されています。
μt:組織の線減弱係数
μw:水の線減弱係数
式からも分かるように水の線減弱係数を基準に決まる値でした。
今重要なのはCT値が線減弱係数の分布を示しているということです。
線減弱係数μはこのように表せます。
μ/ρ:質量減弱係数
ρ:物質の密度
この式からも分かるように線減弱係数μはその物質の原子番号に依存する質量減弱係数と物質の密度の積です。
つまり、原子番号が高く密度が小さい物質と原子番号が低く密度が高い物質では同じ線減弱係数を示す可能性があるということです!
わかりやすい例としては石灰化とヨードなどがあります。
どちらもCT画像上では高吸収(白)な物質として描出されます。
石灰化は原子番号はそこまで高くありませんが、固体であるため密度は高くなっています。
これに対してヨード造影剤は原子番号は高いものの、希釈されているため密度はそこまで高くありません。
これらが同じような線減弱係数を示す場合、2物質を区別することができません。
これは造影CT(CTA)を行う場合に問題になりそうですよね。
ここでもう一つ復習です。
質量減弱係数はX線のエネルギーによって変化するものでした。
そしてその変化は物質によって異なるものでしたよね。
細かい原理は省略しますが、DECTではこれを利用して物質の弁別がある程度可能となります。
「ヨードだけの画像などが見れたらいいなー」ということです。
何となく理解できたでしょうか?
では、続いて仮想単色X線画像について見ていきましょう。
仮想単色X線画像
仮想単色X線画像とは2つの異なる管電圧による撮影で得られたデータから、任意のエネルギーで撮影した画像を仮想的に生成する技術です。
2種類のエネルギー(正確には2種類の管電圧)の撮影で任意のエネルギー画像が得られるのはすごいですよね!
この任意のエネルギーはもちろんどんなエネルギーでも可能という訳ではありませんが、撮影に用いたX線の実効エネルギーより低いエネルギーや高いエネルギーの画像も作ることができます。
これを理解するためにはDECTの原理に触れる必要があるので、次回以降に詳しく説明しますが、今回はとりあえず上記の内容が可能であると考えてください。
任意のエネルギーのX線で撮影した(されたような)画像はどのような場合に役立つでしょうか?
例えば、低エネルギー画像(低keV画像)ではコントラストを増強することができます。
これは一般撮影でも言えることですよね。
このコントラスト増強は造影検査で特に役に立ちます。
造影剤と組織のコントラストが大きくなるため、造影剤の減量が可能となり、副作用の低減に有用となる可能性があります。
高keV画像においても原理は曖昧ですが、金属アーチファクトが低減される効果があるようです。
あくまで仮想的なものですが、様々なエネルギーの画像を生成できることは有用性がありそうですね。
では、最後にビームハードニング補正を見ていきます。
ビームハードニング補正
CTに限らずですが、我々が使用するX線は連続スペクトルを持つ連続(多色)X線です。
様々なエネルギーのX線が混ざっているということですね。
この連続X線が被写体に入射すると、その経路の中で低エネルギーのX線から吸収されていきます。
これによりX線のスペクトルは変化し実効エネルギーが高くなります。
これがビームハードニング(線質硬化)です。
CTでは撮影方向によってこのビームハードニングの度合いが異なるため、再構成時に矛盾が生じてCT値が低くなったり高くなったりします。
カッピングやキャッピング、ダークバンドなどのアーチファクトの原因となるものです。
このビームハードニングの補正にもDECTの有用性が認められています。
DECTによるビームハードニング補正は仮想単色X線画像におけるビームハードニングを補正するものです。
言い方を変えれば、より正確な仮想単色X線画像を得るための処理です。
単色X線であればビームハードニングはないはずということです。
これもまた詳細な原理は省略しますが、異なる管電圧の撮影で得られたデータから最も尤もらしいエネルギーと透過長(量)を導く最適化問題になります。
結果的にはいかにも単色X線で撮影したような画像を作り出すことになります。
まだまだDECTが役に立つ場面はあると思いますが、これらを何となく知っているだけでその辺の学生よりかは詳しいと思います笑
次回はこのDECTの原理についてまとめていきます。
少し難しくなるかもしれませんが、ぜひ読んでください。
ではまた!