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国試の難問?①(第71回診療放射線技師国家試験午前94)

こんにちは!

 

今回は国試の難問(奇問?)の解説をしていきたいと思います!

 

今回取り扱う問題は、第71回午前94です。

 

94  デジタルX線画像検出器のアパーチャMTFを図に示す。

検出器の開口幅[mm]はどれか。

f:id:Yuru-yuru:20191215101537j:image

1.0.25

2.0.5

3.1

4.2

5.4

(第71回診療放射線技師国家試験より引用) 

 

 多くの方が「アパーチャMTFって何だ?」状態だと思います。僕自身初めて解いたとき、「あっ捨て問だ」と思いました笑

 

この問題を理解するためには

①アパーチャ効果とは何か

フーリエ変換の計算処理

を理解する必要があります。

 

この時点でやる気が消失しそうですが何とか頑張りましょう!

 

アパーチャ効果

では、アパーチャ効果から説明していきます。

検出器は理想的には大きさを持たない点信号だけを取り出すと考えられますが、実際の検出器はある大きさを持ったピクセル内の信号を1つの信号として出力します。

このピクセルの持つ幅が問題で問われている開口幅に相当します。

 

すなわち、アパーチャ効果によって入力される信号は広がりを持たないインパルス信号から広がり(開口幅に相当)を持った矩形波の信号になります!

f:id:Yuru-yuru:20200130012725j:plain

少々不正確な図ですが、概要の理解には問題ないと思います。

 

理解できたでしょうか?ここまでが第1段階です。

 続いてアパーチャMTFを求めるためのフーリエ変換の計算を解説していきます。

 

フーリエ変換

フーリエ変換の式の意味や導出から説明していると最後まで読む人がいなくなってしまいそうなので、今回はカットします笑(要望があれば別の記事で出します)。

 

今回はアパーチャMTFの意味とそこで必要となるフーリエ変換の計算について説明したいと思います。

 

そもそもMTFはどのようなものでしょうか?

 

MTFとは、理論的には大きさを持たないインパルス信号が検出器を通して画像になった時の線拡がり関数(LSF)をフーリエ変換し、その振幅(絶対値)の変化をグラフとして描くことで、各周波数成分がどの程度正しく表現されるかの度合いを示すものです。

 

話がややこしくなってきましたね。MTFについてよくわからないという方は少し置いてかれるかもしれませんがこのまま突き進みます笑

 

実はMTFは様々な成分を含んでいます。アパーチャMTFはこのうちの1つの成分です。

 

再度確認しますが、アパーチャ効果は入力される信号が広がりを持たないインパルス信号ではなく、広がり(開口幅)を持った矩形波の信号となることです。つまり、アパーチャMTFはこれにより生じるMTFの変化を示す成分だと言えます。

 

よって、アパーチャMTFを求めるためには、開口幅d[mm]の広がりを持った矩形波の信号フーリエ変換することが必要になります。

 

ここでフーリエ変換の式を確認します。

F(\omega) =\int_{-\infty} ^{\infty}f(x) e^{-i\omega x}dx

意味はともかく計算方法だけでも理解しましょう!

 

今回入力信号f(x)は幅d[mm]の矩形波だから、

f:id:Yuru-yuru:20200130015522j:plain

となり、以下のように計算できます。

 

F(\omega) = \int_{-\infty} ^{-\frac{d}{2}}f(x) e^{-i\omega x}dx + \int_{-\frac{d}{2}} ^{\frac{d}{2}}f(x) e^{-i\omega x}dx + \int_{\frac{d}{2}} ^{\infty}f(x) e^{-i\omega x}dx

   = 0 + \int_{-\frac{d}{2}} ^{\frac{d}{2}}a e^{-i\omega x}dx + 0

   ={\frac{ai}{\omega}}[e^{-i\omega x}]^{d/2}_{-d/2}

   ={\frac{ai}{\omega}}(e^{-i\frac{\omega d}{2}}-e^{i\frac{\omega d}{2}})

 

ここで、オイラーの公式より

e^{i\omega x}=cos(\omega x)+isin(\omega x)

e^{-i\omega x}=cos(\omega x)-isin(\omega x)

となるため、

e^{-i\frac{\omega d}{2}}-e^{i\frac{\omega d}{2}}=-2isin(\frac{\omega d}{2}) 

 

よって、

F(\omega)={\frac{ai}{\omega}}\times(-2isin(\frac{\omega d}{2}))

   ={\frac{2a}{\omega}}sin(\frac{\omega d}{2})

   =ad{\frac{sin(\frac{\omega d}{2})}{\frac{\omega d}{2}}}

矩形波フーリエ変換してsinc関数が出てきたのでおそらく合っているでしょう笑

 

しかし、MTFの横軸は空間周波数uなのでもう少し変形しましょう。

\omega=2\pi u より

F(u)=ad{\frac{sin(\frac{2\pi ud}{2})}{\frac{2\pi ud}{2}}}

   =ad{\frac{sin(\pi ud)}{\pi ud}}

 

また、MTFはF(u)の絶対値であるため、

MTF(u)=|F(u)|

となります(正確にはゼロ周波数で正規化しなければいけませんが今回は省略します)。

 

追記

第72回診療放射線技師国家試験でアパーチャMTFの式が出題されました。

上ではゼロ周波数で正規化する手順を省略していましたが、出題された問題では正規化が行われていたので追記します。

 

ゼロ周波数(u = 0 cycles/mm)のとき、MTF(u)は、

MTF(u) = ad

となります。

 

これは、sinx/xの極限から求めることができます。

詳細な証明はしませんが、

\lim_{x \to 0} {\frac{\sin x}{x}} = 1

であるため、

\lim_{u \to 0} (ad|{\frac{\sin (\pi ud)}{\pi ud}}|) = ad

となります。

 

よって、正規化を行なうと

MTF(u) = {\frac{1}{\pi ud}} |\sin(\pi ud)|

と求められます。

 

ここまでくればあともう少しです。頑張りましょう!

 

検出器の開口幅を求める

さて、最後に問題を解くにはどうすればいいでしょうか。

 

グラフからは

MTFがsinc関数の絶対値を取った形をしていること

・u=2,4[cycles/mm]でMTF(u)=0となっていること

が分かります。

どうやらこのMTF(u)=0となる点が関係しそうですね。

 

では、先ほど求めた式からMTF(u)=0となる条件を求めてみましょう。

MTF(u)=0のとき、ad>0、πud≠0より

sin(\pi ud)=0

    \pi ud = n\pi

    u=\frac{n}{d}

この結果から空間周波数u[cycles/mm]の値が検出器の開口幅d[mm]の整数倍(n=1,2,…)になるとき、MTF(u)=0になると考えられます。

グラフから読み取ると、

\frac{1}{d}=2

d=0.5

となり、検出器の開口幅が求められました。

 

国試対策の参考書ではu=n/dの式がいきなり出てきて、この式とグラフから求めるような解説がほとんどかと思います。

この式を知っていれば解くことはできますが、私は見たことがなかったのでどうしてこうなるのか考えてみようと思い、実際にフーリエ変換までして求めてみました。

 フーリエ変換の復習にもなりますし、一度自分で解いてみるといいかもしれませんね。

 

今回は国試の少し難しい問題について解説しました。

何か誤りがありましたら優しくご指摘ください。

 

ではまた!