「三対子生成」を理解する
こんにちは!
今回は三対子生成についてまとめていきたいと思います。
電子対生成なら知ってるけど、三対子生成って何?という方が多いかと思います。
国試の勉強が進んでいれば、しきいエネルギーがなぜか2.044 MeVになるやつだ!と思い当たる方もいるでしょう。
では、まず基本となる電子対生成から復習しましょう。
電子対生成とは
電子対生成は光子と物質の相互作用の1つであり、物質に入射した光子が消滅して電子-陽電子対が生成される現象です。
消滅した入射光子の持つエネルギーhνは、
・電子、陽電子の静止質量エネルギー
・電子、陽電子の運動エネルギー
に変換されます。
つまり、電子対生成が起きるためには少なくとも電子-陽電子対の静止質量エネルギーが必要となります。
これがしきいエネルギーです。
電子の静止質量エネルギーは0.511 MeVですから、同じ質量の陽電子と合わせて1.022 MeVは少なくとも必要だということになります。
電子と陽電子の運動エネルギーは入射光子のエネルギーから電子-陽電子対の静止質量エネルギーを引いて余ったエネルギーが分配されます。
式で示すと、
:電子(陽電子)の静止質量エネルギー
:電子・陽電子の運動エネルギー
となります。
電子対生成について復習したところで、次は三対子生成について理解しましょう。
三対子生成とは
三対子生成はあるしきいエネルギー以上のエネルギーをもつ光子が物質に入射したとき、軌道電子を反跳させると同時に電子対生成を起こす現象です。
軌道電子を反跳させるので、電子対生成のしきいエネルギーより大きなエネルギーが必要となります。
では、どのくらいのエネルギーが必要なのでしょうか?
普通に考えると、
「電子対生成は電子2個分の静止質量エネルギー(1.022 MeV)だったし、三対子生成は3個分(1.533 MeV)かな?」
って思いますよね。
しかし、予想に反して三対子生成のしきいエネルギーは2.044 MeVです。
何故そうなるのか計算してみましょう!
三対子生成のしきいエネルギー
このしきいエネルギーを求めるためには、相互作用前後について、エネルギー保存則と運動量保存則を基に立式する必要があります。
まずはエネルギー保存則より、
となります。
この式の左辺(相互作用前)は入射光子のエネルギーと反跳される軌道電子の静止質量エネルギーの和になります。
続いて右辺(相互作用後)は飛び出す2つの電子と1つの陽電子の全エネルギーです(3つの電子が全て同じエネルギーをもつと仮定)。
ここで全エネルギーとしているのはしきいエネルギーぴったりでない限り、飛び出す電子・陽電子は運動エネルギーをもつためです。
この全エネルギーは以下の式で表されます。
次に運動量保存則より、
この式の左辺は光子の運動量、右辺は2つの電子と1つの陽電子の運動量になります。
相互作用前の軌道電子は静止しているので運動量は0です。
ここで、より
と変形できます。
これを先程の式に代入すると、
β=1は電子の速度が光速と等しいことを示すので不適と考えると、β=0.8になります。
したがって、
これより、三対子生成のしきいエネルギーは2.044 MeVになることがわかります。
いかがでしたか?
少しめんどくさい計算ですが一応は納得できたかと思います。
詳しい教科書でなければ省略されがちな部分ですので、もやもやしていた部分が少しでもスッキリしたら幸いです。
また何か誤りがあれば優しくご指摘ください。
ではまた!