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医用工学特講 第6回:電圧・電流の進み、遅れとは?(1)

こんにちは!

今回は医用工学で度々出題される電圧と電流の位相についてまとめて行きたいと思います。

いきなり電圧と電流の位相と言われてもピンとこないと思うので、国試での出題を確認してみましょう。

例えば、第66回午後53ではこのように出題されています。

図に示されているように電圧波形と電流波形に位相のずれ(波の時間的なずれ)が現れます。

今回はそもそもなぜ位相のずれが生じるのか考えていきましょう。


なぜ位相がずれるのか

まずこの位相のずれを理解するには、

 1.抵抗のみを含む回路

 2.コイルのみを含む回路

 3.コンデンサのみを含む回路

 4.RLC回路

の4つの段階に分けて考えると分かりやすいと思うので、この順で説明して行きます。

1.抵抗(R)のみを含む回路

抵抗のみを含む場合の回路は、以下のようになります。

f:id:Yuru-yuru:20200224000440j:plain:w200

式で示すと、

 v_R = Ri

となります。

この時、電圧vは電流iを定数倍(R倍)しただけなので位相のズレは生じる原因は無さそうですよね。

例えば、電流i = I_0 \sin(\omega t)とすると、波形は以下のようになります。

f:id:Yuru-yuru:20200224001235j:plain:w200

このとき、電圧vは

 v_R = RI_0 \sin(\omega t)

となるため位相のずれは生じていません。

波形で示すと以下のような感じでしょうか。

f:id:Yuru-yuru:20200224001035j:plain:w200

では、コイルのみを含む回路について見て行きましょう。


2.コイル(L)のみを含む回路

コイルのみを含む回路は以下のようになります。

f:id:Yuru-yuru:20200224001640j:plain:w200

この場合はどうなるでしょうか?

まずは式で示してみましょう。

 v_L = -L{\frac{\mathrm{d}i}{\mathrm{d}t}}

 L:自己インダクタンス

この式の意味を長々と説明してもいいのですが、きっと読みたくないと思うので簡単にまとめると、

・コイルは電流の変化に対して逆向きの電圧を発生し、変化を和らげる

 →電磁誘導誘導起電力

・自己インダクタンスLはその変化を和らげる程度を示すパラメータ

という位に理解していれば十分です。

さて、この状態では位相がどうなるのか分かりにくいので先程と同じようにi = I_0 \sin(\omega t)とすると、電圧vは

 v_L = L{\frac{\mathrm{d}i}{\mathrm{d}t}}  
  =L{\frac{\mathrm{d} I_0 \sin(\omega t)}{\mathrm{d}t}}

  =\omega LI_0 \cos(\omega t)  
  =\omega LI_0 \sin(\omega t+{\frac{\pi}{2}})

高校で数IIIまで履修した方なら大丈夫かと思いますが、

 (\sin \theta) '=\cos \theta

 \cos \theta = \sin(\theta + {\frac{\pi}{2}})

の関係と合成関数の微分を使用しました。

ついでですが、コイルのリアクタンスがωLになるのもこれで理解できるかと思います。

位相のずれは波形で示すとこんな感じになります。

f:id:Yuru-yuru:20200224001754j:plain:w250

図で分かるように電圧の位相は電流に対してπ/2進んでいます!

ここで強調したように何が何に対して進む・遅れるのかを明確にしておかないと間違えやすいので注意してください。

ここで分かってほしいのは

・回路にコイルを入れると電圧が電流に対してπ/2進む

・どっちかわからなくなったら式から導ける

ということです。

では、コンデンサのみを含む回路についてもみていきましょう。


3.コンデンサ(C)のみを含む回路

コンデンサのみを含む回路は以下のようになります。

f:id:Yuru-yuru:20200224002127j:plain:w200

先ほどと同様式で示してみます。

コンデンサについては以前の記事で何度か説明した通り、

 v_C = {\frac{1}{C}} \int i dt

 C:キャパシタンス(静電容量)

と示せます。

この時、i = I_0 \sin (\omega t)とすると電圧は

 v_C = {\frac{1}{C}} \int i dt

  = {\frac{1}{C}} \int I_0 \sin (\omega t)dt

  =-{\frac{1}{\omega C}} I_0 \cos (\omega t)

  = {\frac{1}{\omega C}} I_0 \sin(\omega t - {\frac{\pi}{2}})

少々ややこしいですが、

 {(\cos \theta)} ' = - \sin \theta

 \cos \theta = \sin(\theta + {\frac{\pi}{2}})

から導けます。

先程と同様コンデンサのリアクタンスが1/ωCになる理由もここから分かりますね。

位相のずれを図に示すと以下のようになります。

f:id:Yuru-yuru:20200224002207j:plain:w300

図から分かるように今度は電圧の位相が電流に対してπ/2遅れています!

まとめると

・回路にコンデンサを入れると電圧の位相は電流に対してπ/2遅れる

・どっちか分からなくなっても導ける

ということです。

さて、最後はRLC回路です。

少しややこしくなりますが頑張って理解しましょう。


4.RLC回路

RLC回路は以下のようになります。

f:id:Yuru-yuru:20200224002759j:plain:w200

先程と同様、式で示すと

 v = Ri + L{\frac{\mathrm{d}i}{\mathrm{d}t}} + {\frac{1}{C}} \int i dt

ここから先程と同様に式で求めて行っても良いのですが、ちょっとややこしいですよね。

そこで1〜3で分かったことを使っていきます。

・抵抗の電圧は電流と同位相

・コイルの電圧は電流に対してπ/2進む

コンデンサの電圧は電流に対してπ/2遅れる

これらの関係から以下のようなベクトル図が考えられます。

f:id:Yuru-yuru:20200224012658j:plain:w250

このベクトル図は極めて本質的ですが、意味が分からなかったらやり方だけでも理解できるといいと思います。

先ほどのベクトル図は抵抗、コイル、コンデンサそれぞれの電圧を考えていますが、実際の電圧はこれらの合成となるはずです。

つまり各ベクトルの合成ベクトルが電圧になるということです。

図で示すと、

f:id:Yuru-yuru:20200225172252j:plain:w250

のような感じです。

波形で示すと、

f:id:Yuru-yuru:20200225172413j:plain:w250

となります。

ここまで分かるとインピーダンスがこのような式になることも理解できると思います。

 Z = R + j(\omega L - {\frac{1}{\omega C}})

虚数が式に含まれるのは、この座標の縦軸を虚数軸としているためです。

この虚数軸は便利に使うために導入されたものなので数学的な意味を考える必要はありません。

ちなみにですが、全て電流を基準に考えているのは抵抗・コイル・コンデンサ直列に接続されており、流れる電流が共通だからです。

これに従うと、並列RLC回路では電圧を基準にすればよいということですね。


これ以上説明を続けると電験講座になりそうなので、この辺でやめておきます笑

これで電圧と電流の位相にずれが生じる理由を理解できたのではないでしょうか。

このまま問題を解いていきたいところですが、少し長くなりそうなので次回にまわします。

何か誤りや意味が分からない部分があれば教えてください。

ではまた!